【転記】生活保護のよくあるコメントに答えてみました(4) 「節子、それ不正受給と違う」
生活保護のよくあるコメントに答えてみました(4) 「節子、それ不正受給と違う」
/みわよしこ | フリーランス・ライター 2014年8月29日 13時13分
より転記。
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2014年8月22日に公開した「生活保護のよくある誤解に答えてみました」は、多数のアクセスとコメントを頂戴しました。
今回は、極めて誤解の多い「不正受給」について、誤解されやすいポイントが実はどうなのかをまとめました。
「不正受給」は誰がやるの? 何を「不正」に受給するの?
現行(2013年改正)生活保護法で、不正受給についての規定がどうなっているか見てみましょう。第78条です。
(費用等の徴収)
第78条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
2 偽りその他不正の行為によつて医療、介護又は助産若しくは施術の給付に要する費用の支払を受けた指定医療機関、指定介護機関又は指定助産機関若しくは指定施術機関があるときは、当該費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、その支弁した額のうち返還させるべき額をその指定医療機関、指定介護機関又は指定助産機関若しくは指定施術機関から徴収するほか、その返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
3 偽りその他不正な手段により就労自立給付金の支給を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、就労自立給付金費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
4 前3項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。
不正受給されるものとして想定されているのは、生活保護費と就労自立給付金です。就労自立給付金は、生活保護から就労脱却するときに保険料等の負担が増加することを考慮して給付されるもので、2013年法改正で新設されました。
生活保護費には、生活扶助・住宅扶助など利用者が直接受け取る(住宅扶助は代理で預かっているわけですが)費用だけではなく、医療扶助・介護扶助・出産扶助など生活保護利用者が利用する何らかのサービスも含まれます。その対価は生活保護利用者だけではなく、医療機関などの提供主体に支払われます。
また「他人をして受けさせた者」という記述にも注意してください。不正受給された現金や現物は、必ずしも生活保護利用者本人のフトコロに入っているとは限らないのです。
生活保護費の不正受給が問題にされるときには、ほとんど生活保護利用者本人(または、生活保護を利用していると思われている人)が問題にされていますが、本人による不正受給ではない場合も多いことは念頭においておきたいものです。
不正受給される金額は、最大でも生活保護費以上にはならない
ここで質問です。
ある稼働年齢層の単身者(東京都在住)が、実際には就労所得があることを隠して、「求職しても仕事がない、貯金も使い果たした」と言って生活保護を利用し始めました。
就労所得は、年間200万円です。
この人が一年間に受給できる生活扶助・住宅扶助を合計すると、概ね、年間150万円程度になります(医療扶助など他の扶助も使っているかもしれませんが、話を簡単にするため、この期間に一度も医療機関にかからなかったことにします)。
しかし一年後、就労所得隠しが福祉事務所にバレてしまいました。
この人が不正受給した生活保護費は、いくらでしょうか? 150万円? 200万円? 350万円?
正解は150万円です。
収入認定を行っていれば、本来なら自治体が支払わなくてよかったはずの生活保護費だけです。
不正受給される金額は、最大でも生活保護費以上にはなりません。
生活保護利用者本人による不正受給の場合、「都市部の単身者で最大年間150万円」というところで頭打ちとなります。
もしこの人が同時に、東京都と埼玉県と神奈川県で生活保護を利用していたのであれば、金額はもっと大きくなる可能性もあります。これは実際に時折あるパターンなので、後で一項を設けます。
また、年金など他制度も含めた不正というケースもあります。
しかし、そういうケースも含めて、不正受給されてしまう金額は、金額ベースで0.5%程度を推移してきました。
あること自体、決して望ましくはありません。
でも、この「0.5%」を「0.2%」や「0.1%」にするために、いったいどれだけのコストが必要なのかを考えてみたほうがいいと思います。
ケースワーカー経験者数名に、不正受給摘発のコストについて尋ねてみたことがあります。概ね「平均して、不正受給された金額の3~5倍程度」という答えでした。しかも、不正受給摘発を強化すればするほど、このコストはかさんでいくわけです。
え? だから住民参加で不正を撲滅? ホットラインで密告奨励?
それは、住民が「チクリ社会」に住むというコストを支払わされているということにほかなりません。
問題にするなら、個人よりも、機関や組織による不正受給の方では?
「生活保護を不正受給する人がいて、税金が無駄使いされていると、税金を払うのがバカらしくなる」
というご意見はよく見かけます。
だったら、摘発のコストも無駄遣いしないでほしいものだと思いませんか?
生活保護利用者本人ではなく、機関や組織による不正受給を監視したほうが、よっぽど効率的です。
「貧困ビジネス」であったり、生活保護利用者を対象とした「ブラック医療」であったり、時には自治体の福祉事務所の職員が生活保護費を横領することもあります。
この場合、「一機関・一人で一年間に数億円」といった巨額になりえます。2012年に発覚した河内長野市の生活保護費横領事件を思い出してください(河内長野市役所の事件ページ)。
生活保護利用者個人の不正利用の可能性を疑って、日常生活を気分悪くするより、こういった問題に関心を向けてdisったほうが、よっぽど効率的ではありませんか?
「不正受給」のペナルティは?
では、生活保護費の不正受給に対しては、どのようなペナルティがあるのでしょうか?
もちろん、不正に受給した費用は返還する必要があります。さらに割増されることもあります。前掲・生活保護法78条の規定により、割増率は最大1.4倍となります。
さらに内容によっては、刑事罰の対象にもなります。
これだけ厳しいペナルティがあるのです。
間違っても、冤罪があってはなりません。
気に入らない知り合いやご近所さんが生活保護を利用しているとき、「不正受給だ!」と言いたくなったら、「自分は冤罪の片棒を担ごうとしているのかも」くらいのことは考えていただきたいと思います。
生活保護法63条と78条、どう使い分けられてきた?
紛らわしいのですが、生活保護法にはもう一つ、保護費の返還に関する規定があります。
(費用返還義務)
第63条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
「もらいすぎてたということが分かったら、さっさと返してね」というだけの話です。
「生活保護費を余分に受け取ったけれども、作意も悪意もない」
という場合には、こちらが適用されるのが妥当だと思います。
よくある話に、
「生活保護世帯で育った子どもが高校生になってバイトを始めたが、収入申告の義務を知らなかった」
があります。就労している親がいない場合には、大いに起こりえます。また、
「生活保護世帯で、親がバイトに反対するものだから子どもが隠れてバイトしており、親は収入申告に関して注意を促す機会がなかった」
というケースもあります。
いずれにしても、こんな話でなぜ高校生の悪意を疑わなければならないのかと思います。しかし近年、このような事例で
「いきなり78条(不正受給扱い)」
が増えています。厚労省がそうすることを強く奨励しているからです。
ちなみに大人の生活保護利用者に対しても、いきなり性悪説で接することは、過去には一般的ではありませんでした。
2012年ごろまでの東京23区内では、
「就労収入隠しが疑われるケースでも、最初の1回や2回は 63条+始末書 で対応される。ただし、繰り返されたりエスカレートしていくようなら78条」
という運用が一般的でした。
「福祉」という生活保護制度の趣旨を考えると、こちらの方が妥当な運用ではないかと思いますが、いかがでしょうか?
「生活保護不正受給が急増」の背景
2011年ごろから喧伝されるようになった
「生活保護不正受給が急増」
というニュースを読み解くためには、
「生活保護法63条と78条が、どう使い分けられ、どう適用されているか」
を考える必要があります。
「なんでも78条、とにかく78条」
が、このところの厚労省方針なのですが。
運用が変わっている以上、それ以前の件数や金額と比較して「増加した」と言うことそのものが、不適切な比較というべきでしょう。
「悪質な不正受給」は、背後を考えたほうがいい
では、生活保護法78条+刑事告発 が妥当な、「悪質」なケースではどうでしょうか?
私は一年に1回~数回ほど、
「近接した複数の3自治体から生活扶助と住宅扶助を受け取っていた生活保護不正受給」
といったニュースに接しています。
事件報道はやらないポリシーなので、報道された内容以上は知らないのですが、背後に何かあると考えるのが自然だと考えています。
たとえば、
「東京都杉並区・練馬区・武蔵野市の3自治体の境界近くで、3ヶ所に住居を構え、それぞれの自治体で生活保護を利用している」
というケースを考えてみましょう。
「吉祥寺が好きなので、実際には武蔵野市に住み、杉並区と練馬区は倉庫に」
というようなことができれば「おいしい」かもしれません。
しかし、そうは問屋がおろしません。
「居住の実態がない」がバレないように、不自然さを感じられない程度に、3ヶ所に「住む」必要があります。洗濯物を干すとか、ゴミ出しするとか、考えただけで気が遠くなりそうなアリバイ工作をしつつ。
病気や事故をきっかけに、受給者証を3つ持っていることがバレるかもしれません。
稼働年齢層で傷病者・障害者でない場合、3ヶ所で就労指導を受けることになります。大変でしょうね。
こういったことを個人がクリアできるとは思えません。
「バレないように、うまくやる」
を指導できる組織が背後にある可能性も考えたほうがいいと思います。
さらに考えなくてはいけないのは、その3ヶ所から不正に得た生活保護費が、誰のフトコロに入っているのか、です。本人ではない可能性も高いでしょう。
「不正受給」と見られやすいけれども、それそのものは不正ではないパターン
「不正受給」と見られるけれども、実は不正受給でもなんでもなかった、というパターンについて解説します。
このパターンでのタレコミが多くて、もう辟易してます。
繰り返します、生活保護費の用途は自由です
生活保護費の用途は、原則、自由です。
このことについては、過去の拙エントリをご参照ください。
生活保護のよくあるコメントに答えてみました(1) 生活保護費の用途は原則自由です、他
生活保護なのにパチンコしていいの?
生活保護費の用途は自由なので、パチンコなどのギャンブルに使うこと自体には問題はありません。
問題は頻度と費用です。
生活保護費から若干の無理なやりくりの範囲で支出できる遊興費は、最大5000円程度だと思います。これでパチンコが楽しめるのでしょうか?
もし、毎日パチンコ屋に行って十分に楽しめているのであれば、パチンコ以外の生活が極度に圧迫されていることでしょう。それにしても厳しくないでしょうか。一ヶ月あたり5万円あっても、パチンコを毎日楽しむには足りないのでは?
もっと深刻なのは、パチンコなどのギャンブルのための費用を、就労収入隠しなどの不正受給でまかなおうとする場合です。就労収入隠しならまだしも、もっと重大な犯罪に手を出すケースもあります。
生活保護の範囲で楽しめる、ギャンブルより楽しいことが数多くあってほしいものです。
あ、パチンコでも競馬でも競艇でもなんでも、ギャンブルで儲かったら収入申告しないといけませんよ。
まあ、収入申告するほど儲かりつづけるのは稀なことですが。
生活保護なのに、年金生活者より多く保護費をもらってていいの?
年金への加入期間や時期(まだ年金制度が整備されなかった時期に就労していた、など)によっては、
自分の受け取れる年金 < 最低生活費(だいたい生活保護費)
となることがありえます。
この場合、年金が少ない人には生活保護を利用する権利があります。だから利用すればいいんです。
裕福な家族がいるのに生活保護受けていいの?
はい。家族は関係ないです。
ただ、家族の「裕福」の度合いによっては扶養(仕送り)が求められます。これは2013年の生活保護法改正以前からそうでした。
ちなみに、大騒動になった河本準一さんのお母さんの生活保護利用の件では、違法性はまったくありませんでした。河本さんは扶養を行っていましたから。
生活保護なのに持ち家に住んでていいの?
これも、大いにあり得る話です。
といっても、
「資産価値1億円の豪邸に住んでおり、借金があるわけでもなく、年収2000万円で、なおかつ生活保護」
はありえません。
東京都内でだいたい資産価値2000万円程度以下の不動産だったら、保有したままで生活保護を利用することができます。
「売却させて住宅扶助を利用させるより、持ち家を維持しておいてもらった方がトク」
という判断がされる、というわけです。
ただ、持ち家を保有したまま生活保護を利用する場合、住宅の現物を支給する住宅扶助は利用できません。
補修費、その他もろもろ本人持ちとなります。減免はありますが、固定資産税も発生します。
というわけで、実は賃貸に住んで住宅扶助受けるよりしんどい状況となることが多いのです。
生活保護なのに自動車乗っていいの?
「生活保護のよくある誤解に答えてみました」にいただいたFacebookコメントより。
Yoshikatsu Ohuchi
勤務先: 第一三共
もう一回言います。
公団住宅に住んで、生活保護貰って、風俗関係の仕事して、ベンツに乗ってる奴、いっぱい居るんですよ。調査不足も甚だしい。
偉そうに記事書くんじゃない。
8月22日 21:02
公団住宅と風俗とベンツは事実かもしれませんが、その方々が生活保護利用者だということは確実でしょうか?
そんなに「いっぱい」いるなら、福祉事務所に通報してはどうでしょうか?
相手にされない? だったら、最も可能性高いのは、その方々が生活保護利用者ではないということです。
ご不満ですか? ならば
「こんなに問題のある生活保護利用者が!」
という報道をしたがるメディアに情報提供なさってはいかがですか?
メディアもいろいろです。
確度が低くても、本当は生活保護利用者ではなかったとしても、飛びつくメディアはあるでしょう。
さて本題です。
生活保護を利用している期間、自動車に関しては、保有も運転も原則禁止です。「他人の車を運転」でもダメです。
ただ、日本には
「自動車がないと生活が成り立たず、買い物も通院も一日仕事になり、就労したくても就労活動ができない。就労した場合に、子どもを保育園に連れていくこともできない」
という地域も多いので、この原則はどうにかならないものかと思っています。
ただ、あくまでも「原則」禁止です。
生活保護利用以前から保有していた中古車の維持と運転が、用途などの条件付きで認められることもあります。
障害者で日常の足として自動車が必要な人にも、自動車の保湯と運転が認められることが増えています。
というわけで、「自動車に乗っているから不正受給」とも限りません。
もちろん、自動車の運転免許を取得することについては、何の制限もありません。
たとえば釧路市では、生活保護世帯の就職希望の高校3年生に対し、生活保護のメニューの一つである「生業扶助」を利用しての運転免許取得を積極的にすすめています。運転免許がないと、就職の可能性が著しく狭くなりますから。
生活保護の不正受給を福祉事務所に通報しましたが、何もしてくれませんでした。癒着?
最もありそうなのは、
「通報を受けて調査はしたけれど、実は不正受給でもなんでもなかったので、何もする理由がなかった」
です。
不正受給ではないことが、数多く「不正受給」と誤解されていますから。
生活保護費の用途について - しつこいですけど、自由です
生活保護費の用途は、原則、自由です。
このことを解説した過去の拙エントリへのリンクを、もう一度貼っておきます。
生活保護のよくあるコメントに答えてみました(1) 生活保護費の用途は原則自由です、他
用途が自由だから、自立のために使うこともできるのです。
もし、今は自立のために使っているようには全く見えないとしても、この自由を奪うべきではありません。
生活保護を利用するかどうかに関係なく、誰もに、自分で自分の人生をどう生きるか考える必要があります。
そのとき、自分の持っている資源をどう使うか考える必要もある。
お金は、最も扱いやすい資源の一つです。
生活保護は、他の手段によって必要な資源を得ることのできない人に、その資源を渡す仕組みです。
生活保護利用者ではない人が現金という資源を扱えるのならば、生活保護利用者もそうでなくてはなりません。
その人が自分の人生を生きるための資源がどういう形であるべきかについて、貧困かどうか、福祉給付を利用しているかどうかで差を付ける理由はありません。
便利な、何にでも換えることのできる現金という資源を、自分で考えて使い、結果を自分の次の行動へとフィードバックすることには、誰にとっても大きな意味があります。生活保護を利用している人にとって、その意味はさらに大きいのかもしれません。
生活保護なのに外食していいの?
はい。生活保護費の用途は自由ですから。
生活保護なのにペット・飲酒・パソコン・スマホ(以下略)、いいの?
はい、生活保護費の用途は自由ですから。
生活保護で、特に生活を切り詰めている感じもしないのに、新品のパソコンを持っている。いいの?
パソコンは生業扶助を利用して購入できる場合もあります。
現在は、「そのパソコンで確実に就労して生保から脱却できる」が見込める場合に限られるなど、制約が多いのですけど。
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