科学隊

ささやかな科学と哲学のバトンを渡すための情報交換の場所です。

『新教養としてのパソコン入門 コンピュータのきもち / 山形浩生』

パソコンにあまりにも疎いので、『新教養としてのパソコン入門 コンピュータのきもち/山形浩生』を読んだ。

コンピュータの仕組みや、発展してきた経緯を知ることによって、コンピュータの“感覚”をつかみ、そして、コンピュータがどんな発想で、どんな思いや夢をかなえるべく作られたのかを知ろう。

というのがこの本の目的だ。

「感覚をつかむ」っていうのは、車の構造を知っていると、エンジン音からエンジンがどのくらい頑張っているかわかったり、ハンドルやブレーキを通じて路面の様子が伝わってくるのと同じだ。

この感覚ってのが、とっつきにくいコンピュータに慣れ親しんでいく上で非常に重要になってくる。

僕はこの本を読んで多少なりともこのコンピュータに対する感覚ってやつがつかめたかと思う。

いやー読んでよかった。

また、コンピュータの仕組みや歴史以外にも、哲学的な考え方も含まれていて面白かった。

以下、読後メモから抜粋。

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『人とコンピュータが共生する時代へ』

機械にとって、現代のインターネットの時代は、バラバラだったものが、くっつきあって多細胞生物になった時代といえる。

現在の人間と機械の相互依存は、核生物とミトコンドリアの共生と同じ。

『コンピュータは入力された情報をどう感じるのだろう』

コンピュータは周辺機器からひたすら数字が流れてくる世界に住んでいる。でもそれはよく考えると我々の脳と同じではないか。

我々人間は世界を信号の束としては認識しない。たとえば、青と黄色を混ぜると、緑という全然ちがった色になる。

同じように、コンピュータだって、数字の混ぜ合わさったものから全く別の何かを感じているかもしれない。

宇宙人が人間の頭をこじ開けて調べたら、「この指をちょん切ると、脳のここらへんに信号がきているぞ。」みたいなことはわかるだろうけど、「痛い」という感覚や、それが人間にとってどういう意味をもつのかということまではわからない。

同じように人間も、コンピュータが具体的に何を感じているのかはわからなくて、コンピュータはいきなりコードを引っこ抜いたら「痛い」と感じるかもしれない。

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他にも、『生物の遺伝子も一種のプログラムかも』『コンピュータにとっては人もソフトウェアの一種』とか、既存の制約を破ることの重要性について書かれた、『ホントの想像力はコンピュータを超えていく』も面白かった。

コンピュータの仕組みを理解して、感覚を研ぎ澄ましていって、コンピュータのきもちがわかるようになったら、マトリックスのネオのように、世界が信号に見えるようになるかもしれない。

ところで、以前僕は、「コンピュータと生物の違いは、意識をもっているか否かではないか」と考えたことがあったんだけど、それをよりわかりやすく示してくれた考え方がこの本にあった。

(「コンピュータと生物の違い」というより、「コンピュータと“僕”の違い」と言った方が正しいかな。他の人間が本当に意識をもっているかどうかなんてわかんないし!)

それが「フィードバック」だ。

コンピュータと我々の違いは、「何かをした時、フィードバックがあるかないか」である。

例えば我々は、キーを叩くと指先に反応がある。何かを書くとその結果が視覚的に確認できる。話すとその声が自分でも聞こえる。

でもコンピュータは、モニタに何か表示しても、コンピュータ自身は、どのように表示されているのか、それが正しいかどうか、確認することはできない。

コンピュータはフィードバックがないため、自分を含めた全体的な視野がない。

これが我々人間とコンピュータの違いだ。

ところで、マシンにだって(フィードバックを与えてやって)<意識>を持たせることは可能なんじゃないか?と前に書いた(→無機高等生物)ことがある。

例えば、コンピュータが「私は自我をもった生物か?」という問いを発したら「Yes」という信号を送るようにプログラムしておけば、コンピュータは自分を生物だと思い込む。

それならば、逆に言えうと「我々人間はコンピュータではない」とも言い切れないことになる。

やっぱり山形浩生の言うように、人とコンピュータは同じなのかもしれない。

(コンピュータのCPU(プロセッサ)が我々の脳で、マウスやキーボードやスキャナが、我々の目や耳や鼻に相当する)

コンピュータはあなたが今このブログを読んでいる瞬間も、何かを感じているのかもしれない。

山形浩生著作権についても触れる。

今の世の流れは、著作権がでしゃばりすぎて、ものづくりの邪魔になっている。

目先の利益だけを追わずに、もっと長いスパンで考えるべきだ。

山形浩生は、自分の書いたテキストをネット上に無料で公開しており、コピー&ペーストは自由としている。

現にそれは僕が芸術作品と科学技術に関するレポートを書いた時、役に立った。

知的財産はどんどん広がっていくべきものだ。

あと思ったのが、文章が面白くて読みやすい人ってみんな例えが上手い。

山形浩生は特に上手。

僕は例えが下手だ。