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<a href="http://secret.ameba.jp/frederic-chopin/amemberentry-11891271260.html">『ジムに通う人の栄養学 / 岡村浩嗣』を読了</a>

『ジムに通う人の栄養学 / 岡村浩嗣』を読了。

結論から言うと、??と感じる点が多かった。

以下、内容と感想。

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「エネルギー」という単語は広い意味を持つが、スポーツ栄養学で重要なエネルギー源は血中のブドウ糖(グルコース)と筋肉や肝臓のグリコーゲン(エネルギー源として体に保存されている炭水化物)のことである。血中のブドウ糖濃度は血糖値ともいう。

脳は血中ブドウ糖をほとんど唯一のエネルギー源としている。また、脂肪がエネルギー源として利用されるためには炭水化物が必要である。

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体内でのたんぱく質代謝の概要

たんぱく質―消化→ペプチド・アミノ酸―吸収→アミノ酸

アミノ酸たんぱく質酵素、ホルモン、抗体

         →エネルギー源、ブドウ糖、脂肪

         →尿素

体内にはアミノ酸をエネルギー源として消費したり、ブドウ糖や脂肪に変換したりする代謝経路もある。

絶食が長時間になってブドウ糖が不足すると、筋肉や内臓のたんぱく質が分解され、生じたアミノ酸からブドウ糖が合成される。これを「糖新生」という。体内のグリコーゲンが少ないなど、炭水化物が不足した状態で運動すると、汗への尿素窒素の排泄が増える。これは、糖新生のために体たんぱく質の分解が増えたことを意味している。

食品中の糖質は単糖類(ブドウ糖や果糖など)、二糖類(砂糖、乳糖、麦芽糖など)、多糖類(でんぷん)に分類される。二糖類や多糖類は単糖類に分解(消化)されてから吸収される。

砂糖はブドウ糖と果糖、乳糖はブドウ糖ガラクトース麦芽糖は2つのブドウ糖が結合している。

でんぷんはブドウ糖が数多く結合している。アミロースとアミロペクチンがあり、一直線に結合して螺旋状になっているものをアミロペクチンという。一方、グリコーゲンのように、結合の途中に多くの枝分かれがあるものをアミロペクチンという。

果糖もガラクトースも、吸収後は体内でほとんどがブドウ糖に変換される。

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「果糖もガラクトースも、吸収後は体内でほとんどがブドウ糖に変換される」というのは間違っているのでは?

果糖の代謝は特殊/ドクター江部の糖尿病徒然日記

果糖は、ブドウ糖とは代謝経路が全く異なっています。

そして、果糖のGI(血糖上昇指数)は20くらいと低いです。

果糖の代謝経路は特殊で、10%がブドウ糖に変換され吸収されますが、残りの90%は、果糖のまま吸収され、肝臓でそのまま直接代謝されます。

ですから、果糖は血糖値をほとんど上昇させず、インスリンの分泌もほとんど促しません。

つまり、果糖のGI値が低いのは、果糖が「ブドウ糖として」利用されるのはごく一部であるからであり、果糖の吸収速度が遅いからGI値が低いというわけではありません。

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脂質を構成する脂肪酸の中には、必須脂肪酸と呼ばれるものがあり、これは必ず摂取しなければならない。リノール酸とα-リノレン酸がそれである。

動物性脂肪には多価不飽和脂肪酸が少ないのに対して、植物油や魚油には多価不飽和脂肪酸が多い。

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基礎代謝には呼吸のための肺まわりの筋肉の活動、血液循環のための心臓の活動などが含まれる。

さらに、人の体の成分は、絶え間なく古い成分が新しい成分に置き換わっている。これを新陳代謝という。この新しい成分を作るため、すなわち体たんぱく質の合成に、基礎代謝の25%ほどが利用されている。加齢につれて新陳代謝が低下するので、歳をとると基礎代謝は減少する。

基礎代謝にはそのほかに体温維持のために消費されるエネルギーが含まれる。

食事誘発性熱は、たんぱく質では摂取量の20%、炭水化物では5~10%、脂質では~5%と栄養素によって異なる。

脂質の食事誘発性熱生産は5%以下なので、たんぱく質の20%にくらべて「無駄」になるエネルギーが少ない。

三大栄養素によるエネルギー生産経路

たんぱく質  糖質(炭水化物)   脂肪

  ↓       ↓           |

ペプチド   デキストリン       ↓

  ↓       ↓         脂肪酸

アミノ酸 ブドウ糖(グルコース)    |

  |       |          |

  ↓       ↓          ↓

     クエン酸回路 

三大栄養素である炭水化物・脂肪・たんぱく質は、それぞれが代謝されエネルギー生産に利用されるが、途中からクエン酸回路で合流する。

このように3つの栄養素からエネルギーを供給できるということには、次のような意義がある。炭水化物は脳のほとんど唯一のエネルギー源なので、エネルギー源としての優先順位は最上位である。しかし、体内の貯蔵量は少ない。飢餓で食事が不足すると炭水化物が不足してしまう。その場合、筋肉や内臓を作っているたんぱく質が、優先順位の高い炭水化物を体内で合成するための材料として消費される。このため、飢餓では体脂肪が減少するだけでなく筋肉も減少するのである。

炭水化物が不足すると…」と一括りにしてるけど、血糖値が不足してるのか、筋グリコーゲンが不足してるのか、等で違ってくるのではないか。

三大栄養素の相互変換

    たんぱく質

    |    |

    ↓    ↓

炭水化物脂肪

三大栄養素はそれぞれがお互いをすべて補い合えるわけではない。炭水化物はたんぱく質から作ることができるが、たんぱく質は炭水化物からも脂肪からも作ることはできない。たんぱく質も炭水化物も脂肪には変換されるが、脂肪はたんぱく質にも炭水化物にも変換されない。脂肪が増えやすく減りにくい理由の一つである。

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エネルギーが不足していると、たんぱく質は筋肉などの合成ではなくエネルギー源として利用される。

たんぱく質は摂れば摂るほど筋肉合成が高まるわけではない。

運動しながらたんぱく質の摂取量を1日・体重1kgあたり0.86gから1.4gへ増やすと体たんぱく質合成が高まるが、2.4gへ増やした場合は体たんぱく質合成がさらに高まることはなく、エネルギー生産を意味する酸化が増加する。このため、体たんぱく質合成に効果的なたんぱく質摂取量は、1日・体重1kgあたり2g程度が上限とされている。

「運動」とひとくくりにしているが、持久トレーニングなのか、ウエイトトレーニングなのか。運動強度によって結果が変わってくるのではないか。

「窒素出納」は、たんぱく質の必要量の評価基準で、正の値は体たんぱく質が「合成」状態であることを意味し、負の値は「分解」状態であることを意味する。体たんぱく質は摂食時には合成されるが絶食時には分解される。

たんぱく質の摂取量を増やすと、摂取時の体たんぱく質合成が高まると同時に絶食時の分解も高まる。

たんぱく質摂取量を増やすと異化と同化の両方が増大する。

たんぱく質摂取量を1日につき体重1kgあたり1gから2gへ増やすと、筋肉などの合成が減少する。

たんぱく質アミノ酸に消化されて吸収された後、最初に運ばれる腸と肝臓で代謝され、その後に筋肉などへ運ばれる。日常的にたんぱく質を多く摂っていると、腸と肝臓でのアミノ酸の分解が高まる結果、筋肉などへ合成の材料として供給されるアミノ酸が減る。

筋肉合成に使われる「割合」が減るだけであって、「総量」で考えれば、筋肥大目的ならば2g摂ったほうが良いのではないか。また、被験者が実験期間中どれくらいの強度の運動をしていたかによって結果が変わってくるのではないか。

ラットを用いた研究で、高たんぱく食を与えると筋肉量が少なくなる傾向が観察されている。

食事から何分後の測定結果なのだろうか。

(運動後に)炭水化物中心の食事と、高たんぱくの食事を与え、直後に筋肉の重さを測定して比較した実験だとすると、グリコーゲンが補給される高炭水化物食のほうが筋肉の重さ増えるに決まってるのではないか。

これらの実験の結果などから、運動で筋肉を鍛えるときに高たんぱく食が望ましいことを支持する科学的な証拠はないといえる。

このように結んでいるが、疑問点が多く残った。

筋肉たんぱく質の合成は、1回(1食)あたりのたんぱく質摂取量が20gで最大になる。20g以上のたんぱく質を1回で摂った場合には体たんぱく合成には利用されず、酸化、すなわちエネルギー源として消費される量が増える。

エネルギーが不足しないような食事を摂っていれば、筋肉増強が目的であっても、たんぱく質の多い食事を心がける必要はないし、プロテインサプリメントを摂取する必要もない。

栄養摂取の内容(消化スピードの違い)によって結果が全然違ってくるのではないだろうか。

また、ハードトレーニング直後の栄養摂取の場合だと結果が変わってくるのではないか。

この本、実験結果のグラフを示してはいるが、どのような内容の実験で得られた結果なのかが詳しく示されていない。ブルーバックスにしては科学的とは言えない内容だと思う。

たんぱく質は20種類のアミノ酸がつながってできている。このうち体内で合成することができない9種類を必須アミノ酸といい、体外から摂取する必要がある。

食品のたんぱく質の「質」の良否は必須アミノ酸の量とバランスによって決まる。

精白米ではリジンが不足していて必要量の65%しか含んでいない。不足しているアミノ酸の必要量に対する割合を「アミノ酸スコア」という。精白米のアミノ酸スコアは65である。一方、鶏卵には不足しているものはないので、アミノ酸スコアは100である。

たんぱく質は炭水化物とともに摂取すると、体たんぱく質合成に利用されやすいと考えられている。

摂取した炭水化物によってインスリン分泌が刺激され、これが摂取したたんぱく質の体たんぱく質への合成を促進するとともに、体たんぱく質の分解を減少される。

筋肉の成長とトレーニング後の栄養摂取/OneH

のように、「インスリン (炭水化物) はタンパク質分解を抑制するが、タンパク質合成を刺激する働きはない」との見解もある。

運動後、早めに栄養補給することで運動の筋肥大効果がより高まる理由としては、運動後は、①筋肉への血流量が増大しているため、筋肉たんぱく質の材料となるアミノ酸の供給量が増えること、②筋肉たんぱく質の合成を促進するとともに、分解を抑制するインスリンに対する筋肉の感受性が高まっていることが考えられている。

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実験では「主要評価項目」と「副次的評価項目」がある。たとえば、心臓病の薬の開発研究では、心臓病で亡くなる人が減るかどうかが「主要評価項目」である。しかし、心臓病で亡くなる人が減るかどうかを短期間で確認するのは難しい。そこで、代わりに「副次的評価項目」で薬の効果を評価することになる。心臓病で死亡する危険性は血中脂質異常や高血圧などで高まる。このため、たとえば薬に血中脂質異常を改善すふ作用があれば、心臓病で死亡する危険性を低くできる可能性があると考えられる。しかし、脂質異常を改善したら必ず心臓病で死亡する危険性が低くなるわけではない。

筋肉量を増大させるサプリメントの実験を考えてみる。筋肉量増大を目的としたサプリメントの実験では「筋肉量」が増えるかどうかが「主要評価項目」になる。この実験での「副次的評価項目」は筋肉量の増大に関係する体内での代謝変化である。しかし、筋肉たんぱく質の合成と分解は食後と絶食期間で交互に優勢になる。したがって、サプリメントを摂取すると筋肉たんぱく質合成が高まったというような「副次的評価項目」だけでは信頼性は十分でないということである。

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